完全なるオリジナルでただ意味不明な話
待っている貘さん
[0回]
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何もない土地に水を与えている不思議な男がいた。
その行為だけでも不思議なのに、見た目が白髪碧眼の男は、遠目からみれば細い女のようにも見えた。
「何でそんなところに水をやっているんだ?」
「ここに花が咲いていたからさ」
「花?こんな所に?」
「昔はこの一面に咲いていたんだよ」
今はひび割れた大地しかないのに、その男はジョウロで水を与えている。
意味がない行動に俺はまた問いかけた。
「今更やったところで花が咲くと思っているのか?」
「さぁね。俺も分かんないや」
「咲いたとしたらどうするんだ?」
「枯れないように水をあげるよ」
「そんなことして意味があるのか?」
「うん。その花が目印になって、大好きな人がここに来る」
遠くを見つめ、懐かしそうに眼を細めているその男は、確信に満ちた声で答えた。
「何でここに来るんだ?」
「昔、その人とここで初めて会ったからだよ」
「そいつは花が好きなのか?」
「いいや、全く似合わない人だよ。でも俺に似合うって言ってくれたから、ここをよく待ち合わせにしていたんだ」
「……そいつは、今どこにいるんだよ?」
「さぁね」
「分からないのに、それでも待つのか?」
「待っていると自然とその人は来てくれるんだ。そしてまた遠くに行ってしまうけどね。もう何回もそうやって待っているんだ」
「引き留めないのか?」
「引き留めても、遠くに行ってしまうよ。俺みたいにずっとこの場にはいられないんだ」
「引き留めても遠くに行くような奴なら、いつか来なくなるんじゃないのか?」
「そうかもね」
「……あんたはそれでいいのか?」
「仕方がないよ。今までだってもう来ないんじゃないのか、って思って怯えていたんだから」
「自分から会いにいかないのか?」
「行きたいけどね、きっと行っても無駄だよ」
「どうして?」
「その人は遠くに行く度に俺を忘れてしまうんだ」
「……そんな奴を、どうして待つんだよ?」
「それだけ好きな人だからだよ」
意味もなく水を与えているジョウロを、その手から叩き落とした。
痛そうに片手を抑えている男は、何かを探るような瞳で俺を見つめる。
「痛いよ」
「こんなくだらねぇ事すんな」
「くだらなくない。あの人が来てくれるんだから」
「そんな必要はねぇって言ってんだよ」
「……あぁ、君だったのか。今回は来るのが早かったね」
そう言ったその男は、嬉しそうに笑っていたけど、それと同時に涙を零した。