目蒲さんと門倉さん
短い話で多分切ない話です
[2回]
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夏は暑い
そんな事は当たり前だが、照りつけてくる太陽、その熱を吸収し放出するアスファルト、そして蝉の声
夏らしい光景だが不愉快な汗が流れるだけだ、と門倉は額の汗をぬぐう。
いくら夏服と言ってシャツ一枚でも暑いものは暑い。
「はよ帰るか……」
クーラーの効きすぎたオフィスも逆に寒く感じてしまい嫌ではあるが、これ以上外にいるよりはましだ。
さっさと仕事を終わらせて戻ろう、と門倉は足を速めた。
仕事が終わり賭郎内の廊下を歩く。
廊下は程よい空調だ。
シャワーを浴びてからオフィスに戻るか、それともこのまま戻ってしまおうかと考えた時、首筋に冷たい感触。
「うぉ!?」
この時初めて背後に人がいる事に気づいた。
自分の間合いまで気配を消せるのはそう何人もいない。
「メカ、何するんじゃ」
「ははっ、門っち変な声でたねぇ」
振り返れば自分の友人である目蒲がアイスを持って笑っていた。
「はい、外回りしていた門っちへのご褒美」
「おぉ悪いな。でも首筋は止めんか」
「立会人たるものいつでも対応できるように、でしょ?」
そう言って廊下にあった木製のベンチに目蒲は腰掛ける。
その隣に門倉も座ると、アイスの封を開けた。
ちょうど向かい側は窓ガラスがあり、そこから手入れされた中庭の緑が見える。
「暑いねぇ」
「そうじゃな。これからも外に出る機会が多いとなると気が滅入る」
「そうかな?まぁ俺も暑いのは嫌いだけどねー。でもあのジジイのアイスコーヒーを飲まなくて済む」
ジジイが誰を指しているのかは分かっていた。
彼のコーヒーにより何人もの犠牲者が出た事だろうか。
「噂はかねがね」
「絶対に門っちはあいつのコーヒー飲んじゃ駄目だからね!!」
「肝に銘じておくわ。それにしてもアイス美味い」
「暑い時はなおさら、だね。今度門っちがアイス奢ってよ」
「そのつもりで渡したんか」
笑って門倉が聞くと目蒲は笑う。
普段人を見下し距離をとる目蒲が純粋に笑うのはおそらく門倉だけだろう。
「門っちを驚かすのと、こうして一緒に食べていれば暑いの一緒に忘れられるじゃん」
だから今後もアイス奢ってあげるから、たまに奢ってよね?
目蒲の言葉に門倉も笑って頷いた。
涼しげな音が鳴り、門倉ははっと顔を上げた。
木製のベンチには自分しか座っておらず、隣と手元を見やるが何もなかった。
窓につるされた風鈴が、粛清された目蒲と重なってしまいそうな気がして目を背ける。
突然首元にアイスを押し付け、隣で一緒に笑いながら食べる友人はもういない。
「暑いの……」
あぁ、今年は一段と暑い。