【それはまるで血のようで】で完結させる際に考えていた【治るか治らないのか分からない】ENDだった場合の話です。
機会があれば他の話で使いたかったのですが、特にこれといった話が思いつかなかったので晒そうと思います。
こんな感じの終わり方もあったのか、程度に思っていただければ幸いです。
[0回]
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「退院おめでとう」
笑顔で病室に訪れた撻器に、荷物をまとめていた匠は嫌そうな顔を浮かべた。
「……お前どうして来た?仕事があるんじゃないのか?」
「ぐはぁ!!お前の事だから俺が仕事中に退院すると思ってな、担当医に聞いておいた」
やはりな、とため息を吐いた匠の鞄を撻器が奪い取る。
「離せ」
「俺が運んでやる」
「大丈夫だ。この位持ち運べる」
「いいからいいから。車も用意させてある、家に帰るぞ」
「……家に帰ると言っても、お前の家だろ」
「よく分かったな」
「私の家ならお前がこうして荷物を奪う事はないだろうからな」
「ぐはっ、分かっているじゃないか。まぁお前の家でも俺の家でもあまり変わらないだろ」
そのまま匠の手を引き歩き出す。
文句は言っているものの、手を離そうとしない匠に
「素直じゃないな」
と、撻器は笑った。
荷物を客間に置くと、匠はソファに身を沈める。
その隣に撻器が座った。
「久しぶりに帰ってきてどうだ?」
「相変わらずセンスがいいな。それに整頓されている」
「当たり前だ。匠が帰ってくるから徹底的に掃除した」
「別に潔癖症と言うわけじゃないが……それと帰ってくるって、ここは私の家じゃない」
明日には帰る、と言った匠の腕を撻器は掴む。
「ここをお前の家にしてもいいじゃないか」
「……引っ越せと言うのか?」
「あぁ。駄目か?」
「無理だ。互いの仕事を考えれば共に住むのは無理だろう」
「無理じゃない。それに、お前だって誰か人がいた方がいいだろう?」
「それなら箕輪辺りを…… 「駄目だ!!俺と言う恋人がいながらそれは無いだろ!!」
何度もその問答を繰り返すと、疲れたのか、匠はため息を吐いて答えた。
「……約束してほしい事が3つある」
「ぐはっ、それは了承したって事だな?」
嬉しそうに笑う撻器を匠は睨みつける。
「そうでもしなければお前は勝手に引っ越しの手続きしている……と言うよりも、勝手にしただろう。逃げ道を徹底的に潰すだろうからな」
「俺の事をよく分かっているな。それで、約束してほしい事って何だ?」
「簡単な事だ」
起きたとしても私の事を起こしに来るな
仕事が終わったらすぐに帰って来い、連絡も忘れるな
寝る時は別だからな、お前が抱きつくと息苦しい
匠の言葉に、撻器は難しそうな顔を浮かべていた。
「もっとゆるくしてくれないか?」
「いや、十分ゆるいと思うが」
「……いや、厳しすぎる!!一緒に寝てはいけないのは酷い!!」
「抱きつかれている方の身にもなれ」
「ぐむぅ……なら、俺からの約束を守ってくれるのなら考えてもいい」
「何だ?」
「俺は4つある」
「私のやつより1つ多いじゃないか」
「まぁ聞け」
俺が起きたら寝顔を見せてくれたっていいだろ、起きた時にキスしたい
連絡はするが、夜遅くまで無理して起きているな、お前も仕事があるだろう
せめて寝るまで一緒にいてもいいだろう?
「……ワガママばかり、と言うよりも俺の約束を守る気がない約束ばかりじゃないか」
「いいじゃないか。匠は俺の約束を守ってくれるか?」
「待て。最後の1つは何だ?」
「あぁ、それは」
しっかりと匠の体を抱きしめる。
いつもよりも力強く、少しだけ息苦しいな、と匠は思った。
「俺よりも先に死ぬな」
お願いだから、もう宝石を吐き出さないでくれ、と抱きしめながら言った撻器の背中に、匠も手を回す。
何か答えようと口を開き……そして咳き込んだ。
「匠!!」
「ケホッ……あのな、撻器」
コロコロ、と小さな宝石がフローリングへと零れ落ちる。
初めて宝石を吐き出したころと同じくらいの大きさにはなったが、未だに匠が宝石を吐き出さない日が来ることはない。
そして、症状が和らいだからと言って、命の危険が無くなったとは、言えない。
「お願いだから……無理を言うな」
少しだけ、掠れ震えた声が答えた。