「好きだ。付き合ってくれ」
「付き合ってくれ……恋人同士になれと言う事か?」
「ま、まぁそういう事だな」
「別にかまわない」
晴れて恋人同士(?)になったと言うのに、長の考えていることが全く分からない。
「……どうした?急に顔を近づけて」
「え?」
「あぁ……見えないのか?眼鏡を作ってくることをすすめる」
「いや、そうじゃなくて……」
「?あぁ、補聴器の方か?いくら見た目が若くてもお前も年だろうからな」
キスをしようとすれば、なぜか俺の目と耳の心配をする。
最近のはいいのがあるみたいだ、とカタログを持ってこられた時はどうしようか本気で悩んだ。
別の日に2人きりになり、少しシたいと思い抱きついてみた。
「長」
「撻器……何だ、腰に来たのか?大丈夫か?」
今度は腰の心配。
その日はマッサージしてもらい、次の日にはコルセットを渡された。
マッサージは気持ちよかった。
もしや冗談で付き合っているのじゃないのか、と話し合おうとしても
「今から仕事だから後でな」
と、逃げられそうになったから通れないよう壁に手を叩きつけて遮る。
その手を数秒見つめた後
「……よろけたのか?」
と聞かれた時には脱力するしかなかった。
次の日にはなぜか歩行補助具を貰った。
まだそんな年じゃないとだけ怒ったら
「見た目が若いだけだろ」
と返された。
その日は家の中が戦場になった。
本当に長は俺と付き合っている感覚があるのか分からない。
そんな中、会社を出てみれば雨だ。
車を出してもらおうと思ったら、黒い傘を差している人影が見えた。
長だった。
「傘の中に入れてくれないか?」
「もう1本あるからこれを使え」
そう言って渡されたのは黒い折り畳み傘。
「……こういうのは、相合傘ってのがいいんだぞ?」
「そうなのか?知らなかった」
「そんなわけで傘の中に入れろ」
「断る」
「どうして?」
「どう考えても完全に私達の体が収まる大きさじゃない。肩が濡れるだろ」
「まぁ、そうだが。長の方に傘を傾ければ問題ないだろ?」
「?私達は恋人同士なんだよな?」
「あ、あぁそうだが」
長の口から恋人、との単語が出てくるとは。
少し言葉を選ぶように考えた後
「相手を大切に思うのが恋人同士のする事じゃないのか?私は撻器に風邪をひいてもらいたくないから折り畳み傘を貸したわけだが」
「……ぐっ、ぐはぁ!!」
笑いが止まらない。
つまり、長は長なりに俺を大切にしていたからあんな態度をとっていたのか。
それが老化によるものだ、と思われていたのは心外だが。
「なぁ、キスしていいか?」
「駄目だ。外でしたくない」
「……言えば分かるんだな」
「?」
未だに理解していない恋人の隣で、今度からはきちんと言ってやろうと思った。