柚の樹と螢
柚の樹と螢
pixivに載せていた嘘/喰/い同人二次創作作品置き場
不定期に増えます
よくツイッターで呟いていた妄想を書いております
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雨の音が響く路地裏で、壁にもたれかかりながら座り込んでいる長はぼんやりと自分の体を見た。
上質なスーツは赤黒い液体が染み込んでおり、クリーニングに出してももう使えないだろう、と見当違いな事を考える。
それ以前にまたこうしてスーツを着る機会があるのか、と雨と共に流れ続ける血を眺めた。
簡単な仕事だと思っていたそれは、部下と思っていた者の裏切りにより窮地に陥る事となった。
それでも仕事は遂行したが、死に際の、最後の最後に抵抗され刺されるとは思っていなかった。
自分が油断した結果だ、と反省するがこれを今後に活かせられるのか?と自分の現状を冷静に考えた。
傷は思っていたよりも深いのか動脈が傷ついたせいか、血が止まる気配が無い。
「……寒いな」
動こうにもこの傷ではものの数分で倒れることは目に見えている。
それでも体を動かそうとしたが、すでに手足は冷え切って感覚が無くなっており、そのままバランスを崩して横に倒れ込んだ。
これ以上無駄に体を動かしても死ぬのが速くなるだけだ、と目を閉じる。
あいつと同じように死ぬのか、とふいに思う。
鮮やかな赤を飛び散らせた、あいつらしい派手な死に方とは正反対だ、と脳裏に焼き付いていた光景を思い浮かべる。
最後の最後まで、あいつはいつもの変な笑い声をあげて……
「ぐはぁっ」
出血のしすぎか、幻聴が聞こえてきたなと冷静に考える。
雨の音が聞こえているはずなのに、突然自分の真上から降っていた雨が途絶えた。
重くなった瞼を開き、わずかに顔を上げてみると
「長らしくない格好だな。こんな所で転んだのか?」
死んだはずの男に尋ねられ
「これが転んでできた傷だと思うなら、お前は相当のバカだな」
と、返した。
それもそうだ、と笑われ、目の前に撻器がしゃがむ。
こんな幻聴や幻覚が見えるなんていかれている、と呟けば不満そうな顔になった。
「俺じゃ不満だと言うのか?」
「わざわざ騒がしい奴の幻覚が見えるくらいなら、何も見えないまま死んだ方がましだ」
「何を言っている。助けに来てやったと言うのに」
「お前に何ができる?」
「刺繍が得意だから縫合ぐらいはやってやる」
スーツの内ポケットから針を取り出すと、その穴に刺繍糸を通す。
やろうとしている事を理解し、眉根を寄せた。
「……お前はバカか?裁縫と医療の縫合は意味合いが違う」
「縫えばいいのだから同じようなものだろ。それに、幻覚が何をやっても変わらないと思っているなら、別にいいじゃないか」
糸の端に玉結びを作り、遠慮なしに長の皮膚へと針を突き刺した。
幻覚のせいか痛みがないな、とされるがままでいると
「何か喋れ、縫っているだけなのは暇だ」
「幻覚に何を言えと言うんだ」
「俺がいなくて悲しい、とか俺以外の人間を好きになれない、とか」
「何でお前中心の話をしなければいけないんだ……」
「ほら、何も喋らないうちにもう終わったぞ」
プツッ、と糸を切り、内ポケットにしまい戻す。
すでに感覚がない以上、それによって血が止まったかどうか試す方法は無かった。
「これでしばらくは大丈夫だ。後は輸血でもしてもらえば治るだろ」
「幻覚の治療なんて効くわけがないだろう」
「効くさ、今お前に俺は呪いをかけた」
「呪い?バカらしい」
鼻で笑ってみせるが撻器は口角を上げる。
「その縫合痕は一生消えない。それを見るたびにお前は嫌でも俺を思い出す。お前から俺が消えることは一生ない」
「……バカな呪いをかけたものだな」
「人は人に忘れられた時に本当に死ぬ、って言うだろう?お前にだけは忘れられたくないからな」
くだらない、と吐き捨てる。
「お前を私が忘れるわけないだろう。少しは人を信用しろ」
こんなうるさい奴忘れたくても忘れられるものか、と言ってみれば
「ぐはっ」
と、嬉しそうに笑った。
気づけば、ベッドに寝かされていた。
後から経過を見に来た医者には応急手当はされていたものの、あと少し発見が遅ければ危なかった、と伝えられた。
「それにしても、縫合したみたいですね。痕が残ってしまいますが……」
「……別にかまわない」
死人に縫ってもらった、なんて誰も信じるわけがない。
本当に執念深い奴だ、と醜い傷跡をそっと優しくなでた。
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