どうして自分を誘ったのだろうか、と目の前で美味そうに肉を食べる新開を見て田所は思う。
前々からスプリンターとしての彼を知っていたが、会話を交わしたのはつい最近。
そこから連絡先を交換して、まぁとりとめもないやり取りを何度か行っていたが、こうも食事に誘われるとは思っていなかった。
「どうしたの迅君?食べないの?」
「いや、食うけど。ただ何で俺を誘ったんだ?泉田とか荒北とか、色々いるんだろ?」
『靖友と塔一郎と飯食べてる』と送られてきたメールには、テーブルが潰れるんじゃないかと言わんばかりの料理が載っている画像も添付されていた。
「ん?変かな?」
「変ってわけじゃないけど……一緒には来なかったのか?」
「俺だけが用事あったからね。それに、迅君とは前から飯食べに行きたいなぁ、って思っていたからさ。2人きりで会えたの嬉しいよ」
「ふぅん。まっ、とにかく今は肉食いまくるか!!2人だけなら取り合いもすくねぇしな!!」
そう言って肉を掴む田所に、少しだけ拍子抜けした顔を見せたかと思うと
「迅君らしくていいか」
と笑みを浮かべ、箸を伸ばした。
「……本当にお前って見た目の割に良く食うよな」
2人によって積み重ねられた皿の数を見て、しみじみと田所が言う。
通り過ぎる他の客がぎょっ、とした目で見られるのが少しだけ居心地悪い。
そして離れたところで何やらヒソヒソと店員が話しているが、2人は気づいていない。
「迅君も食べているじゃん」
「俺は元から食うような感じだろうが。新開は細い、ってわけじゃねぇけど……食いっぷりがいいな」
「食べなきゃロードは走れないからね。食いっぷりがいいのは迅君も一緒だよ。美味しそうに食べているから俺まで嬉しくなっちゃう」
「はははっ!!俺が食っているのを見て嬉しくなるって変わってるんだな」
「……うーん、鈍いのは難しいね。尽八は最初が肝心って言っていたけどこれじゃぁ……」
「?どうしたんだよ腹いっぱいになったのか?」
「え?あ、いや、違うよ」
「ならいいけどよ、次は何食う?俺としてはこれの追加とか……」
新開にも見えるようにメニュー表を開き、顔を寄せる。
田所にとっては無意識の行動だったが
「……本当に鈍いのって罪だよね」
新開は自分の顔を手で押さえると、ため息を吐く。
その耳は少しだけ赤くなっていた。
「今日はありがとう」
「何言ってんだよ、飯に誘ってくれたのはお前だろ?俺こそ美味いもんをたらふく食えたからありがとよ」
「そういって喜んでもらえると嬉しいよ。また誘ってもいい?」
「ん?んー……」
新開は緊張した目で返事を待つ。
「またどっか食いに行くのもいいけど、今度は俺ん家来いよ」
「……え?えぇ!?」
「家はパン屋やってんだ。だから今度田所スペシャルを食わせてやる」
美味いしボリュームあるぞ、と田所が笑うと、新開はとても嬉しそうに頷いた。
「もちろん!!また絶対にこっちに来るから楽しみにしている!!」
「おう!!そん時はロードでどっか走ろうぜ」
「そうだね、案内してもらいたいし……あ、迅君もこっち来る事あるなら俺に連絡してよ。色々案内するからさ」
「おう、約束だぜ!!」
今度はいつになるだろうなぁ、と考えている田所には見えないように、新開は小さくガッツポーズを決めた。
おまけ
「尽八ありがとう!!お陰で次は迅君の家で遊ぶことになったよ!!」
「何!?俺と巻ちゃんはまだそこまで行っていないのに……!!ズルいぞ新開どんな手を使った!?」
「るっせーよテメェ等!!恋愛相談なら別の所でしろってんだ!!」