オフ会リクエストの、お互いに信頼しあっているから結構そっけない感じでも行動しているんじゃないのかなぁ、って思った伽羅貘
黒猫さんの思った通りに書けていませんが……よかったらどうぞ
[0回]
《午前2時 015号室》
ただそれだけしか書かれていないメールが届くと、貘は壁にかかっていた上着を手に取った。
簡単に着替え、出て行こうとしたその時に物音で目が覚めたのか、梶が顔を覗かせていた。
「あれ?これからどこかでかけるんですか?」
「うん。ちょっと出かけてくるから留守をお願い。マー君の事頼んだよ」
とだけ言ってそのまま出て行く。
その足取りは心なしか軽く、普段ならタクシーで移動するであろう距離をわざわざ徒歩で向かう。
途中裏路地に入ったりわざと遠回りをしながら歩くと、通りがかりのタクシーを捕まえ、ホテルの場所を告げた。
ホテルの入り口まで入ってもらい、少し多めに運賃を渡すと迷いない足取りで指定された部屋に向かう。
そばにある観葉植物の鉢を少しだけ浮かせ、そこに置いてある鍵を手にし、鍵を開ける。
本来ならもっと巧妙に隠すだろうが忙しい彼のことだ、自分の身をうまく隠すことで精一杯なのだろう、と貘は思う。
「おせぇぞ。時間は決まっているんだ」
「そんな事言ったってさ、伽羅さんはいつも急に呼び出すんだもん。おめかしに時間かかっちゃうんだからしかたがないでしょ~?」
「別にする必要なんてねぇだろ」
「好きな人の前ではいい格好したいって言うでしょ?」
久しぶりに会った伽羅に微笑みかけた。
伽羅が突然連絡をつかなくなったのは半月前からのこと。
最初に来たメールはホテルの名前と部屋の番号、そして時刻しか書かれていなかった。
不思議に思いながら行ってみればそこには伽羅が部屋で待っていて、それからこうして指定された時間に貘が来るようになった。
「とにかく寝るぞ」
「やだなぁ伽羅さん。こういうのはムードが大事なんだよ?」
「ただ寝るのにムードもくそもあるか。今は1分1秒でも無駄にできねぇんだから黙ってお前も寝ろ」
簡単に抱き上げベッドに向かうと、やっぱりムードがほしいよ、と貘が愚痴をこぼす。
それを鼻で笑って返してやり、そのまま抱きしめてベッドに入る。
「分かっていると思うが……」
「1時間後に起こせ、離れるな、でしょ?分かっているよ」
「あぁ」
「もうちょっと寝てもいいんじゃない?ゆっくりする事も大切だよ」
「できねぇからこうなってんだよ」
「だったら無理して時間作らなくてもいいのに」
「うるせぇ。拗ねるくせに」
「別に拗ねてなんか……」
言い返そうとしたが、すでに寝ている伽羅を見て口を閉じる。
しっかりと抱きしめているその腕を外すことはできるわけもなく、貘は携帯のアラームを1時間後にセットして伽羅の胸の中にもぐりこむ。
「……お疲れ様」
今伽羅がどんな状況に追い込まれているのかは、少しだけ予想がつく。
ただ、自分はそれに関して何もできない。
が、それでもこうして自分に会ってくれることが、嬉しかった。
1時間後、アラームが鳴るよりも先に伽羅は目覚めた。
顔にくすぐったい感触があり、少しだけ視線を下にすれば無防備に寝ている貘の顔がすぐそばにある。
「……ちっ」
人の気もしらねぇで、眠り込んでいるんじゃねぇよ
そう言ってやろうかと思ったが、その状況から脱せられないのは自分の実力のせいでもある。
しばらくその寝顔を眺めると、軽く頭を叩いて起こす。
「貘、起きろ」
「……んぅ、もうちょっと……」
「時間がねぇんだ。起きろ」
「…………ふぁぁあ、おはよ、伽羅さん」
「俺より寝ているってどういう了見だ?」
「今回は俺も眠かったの。適当に作るけど、何かリクエストある?」
「特には」
「分かった」
部屋にある簡易キッチンで簡単な料理を作ると、伽羅は黙々と食べ始めた。
寝起きのせいか貘は食べることなく対面するように座る。
時折会話をしてみるが短い返事しか返ってこないので、ただ黙って眺めることにした。
「次はいつ会える?」
部屋から出て行こうとする伽羅の背中に問いかける。
「……さぁな」
「そっか。またメールしてね。どこででも行くから」
「誰かに見つかるような真似はすんなよ」
「分かっているよ。そもそも、俺がそんなヘマしないの知っているでしょ?」
「そうだったな」
「そんなにお仕事忙しいの?」
「テメェには関係ねぇよ」
何度聞いても、何をしているのかを教えてくれなかった。
それでも、貘はただ微笑んで伽羅を見送る。
「何があったって、伽羅さんは俺の元に帰ってくれるよね」
まるで安っぽい台詞だな、と貘は思う。
伽羅もそう思ったのか、鼻で笑った。