ヨキさんのリクエストの貘梶
貘さんって梶ちゃんにハルの事を話していないから梶ちゃんモヤモヤしている気がします
[0回]
喉の渇きで目が覚めると、隣から寝息が聞こえてきた。
隣に寝ているのは貘で、昨晩やった事を思いだすと思わず梶は顔を赤らめる。
そっととベッドから降りた時、腕を掴まれた。
起こしてしまったのかと振り向くと、まだ寝ているようだったが
「……ハル……」
知らない名前が、貘の口から零れ落ちた。
今まで自分も関わってきた人達の中に、ハルなんて名前はいない。
そうすると、ハルとは誰?
「……っ」
嫉妬なんてバカらしい
貘さんの過去の恋人だとしても、それは仕方がない事だ
頭の中ではそう理解しているはずなのに、胸にはどす黒いドロドロとした醜い感情で満たされていく。
(ハルって人は、夢の中に出てくるくらい、その名前が出るくらい、貘さんにとって大切な人だったんですか?)
思わずそう聞きたくなった。
でもそんな事すればただの迷惑な行為とも、返事によっては自分がただ傷つくだけとも分かっていた。
分かっていたからこそ、梶は唇を噛みしめて逃げるように寝室から出て行った。
ソファに座っていると、起きてきたマルコが心配そうに梶の顔を見た。
「カジ 顔色悪いよー。大丈夫?」
「大丈夫だよマルコ。ちょっと寒いからかな?」
「寒いならあったかくしなきゃだめよー!!」
そう言うと、近くにあったマフラーを巻かれた。
何故か顔まで巻かれたが、そんなマルコの優しさが今の梶にはありがたい。
「マー君。巻き方が違うよ~」
今、聞きたくない声が聞こえてきた。
振り返ったら自分は情けない顔をしているだろうから、顔に巻かれた部分を無意識に掴む。
「おはよう貘兄ちゃん!!」
「おはようマー君。梶ちゃん早起きだねぇ」
「……ちょっと喉が渇いちゃって」
「そうだったんだ。それだと苦しいでしょ?巻きなおしてあげる。マー君も巻き方覚えるように見てる?」
「うん!!」
貘の手が伸びてくると、思わずその手を払ってしまった。
「……カジ?」
「あ……すいません。マルコがせっかく巻いてくれたから、このままにしています。やっぱりちょっと眠いみたいですから、もう一回寝ますね」
返事を聞かずに寝室に戻り、シーツに包まる。
とにかく、今は貘の顔を見たくなかった。
もう少し、もう少しすればきっと気持ちに整理がついて、いつも通りに戻れる。
でも
「僕は、ハルの代わりなんですか……?」
手放したくない程、本当はハルという人が好きだったんじゃないのか?
そしたらやっぱり自分は……
「梶ちゃんは梶ちゃんだよ。ハルとは違う」
上から声が降ってきた。
顔を見なくても、聞きなれたその声で誰なのか分かる。
「どうしてハルの事を知ったの?」
「……ハルって、貘さんにとってどんな人だったんですか?」
「質問で返すのなんて反則だよ~。ハルは友達だった」
「手放したくないくらい、僕と間違えるくらい大切な友達だったんですか?」
「……梶ちゃん」
「僕は!!」
起き上がり、貘の顔を見る。
涙のせいでぼやけているが、本音を吐き出すのにはちょうど良かった。
「いいんです、僕がハルさんの代わりだったとしても。ただ、何も知らないのが嫌なんです。知らないでハルさんの代わりにされるなんて……」
言いかけている途中で、貘が梶を強く抱きしめた。
「ごめんね、梶ちゃん。俺のせいで不安にさせちゃったんだね、ごめん」
「貘さん……僕はっ」
「梶ちゃんはハルの代わりじゃないよ。俺を信じて」
信じて、って言われてもハルの事を全く知らないのに、まだまだ不安だらけなはずなのに
「……信じていいんですか?僕は、貘さんに愛されているって信じていいんですか?」
「信じて。俺は梶ちゃんをハルの代わりになんて考えていない。梶ちゃんだから愛しているんだよ」
今はその言葉だけを信じたかった。