柚の樹と螢
柚の樹と螢
pixivに載せていた嘘/喰/い同人二次創作作品置き場
不定期に増えます
よくツイッターで呟いていた妄想を書いております
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コーヒーを飲み込む口の端に鋭い痛みが走る。
思わず顔をしかめた妃古壱の様子を、将輝は無表情に見ていた。
「ケガをするなんて珍しい」
「頼まれた取り立てが、普通なら2人以上でやるべきものだったからですよ」
1人でどれだけ走り回ったり闘ったりしたと思っているんですか、と腫れがまだ引いていない頬を湿布の上から指差す。
苛立ちを含んでいる妃古壱の言葉に将輝は表情を変える様子はない。
「隠密性が必要とされている仕事でしたので仕方がなかったのですよ。それに貴方は成功して大したケガもせずに生きて帰ってきた。やはり私の判断通りでしたね」
「成功させるのは当たり前の事ですよ。しかしお陰で目立つ場所にケガをしてしまった。こんなケガではお客様に怪しまれる」
お客様、と言うのは最近妃古壱が開業した喫茶店の事だろう。
確かに接客業でありまだ店員不足の今、妃古壱も表立ってお客様に対応しなければいけないとなれば頬に貼られている大きな湿布は目立つ。
「そんなの、痴情のもつれとでも言えばいいじゃないですか」
ようやく薄く笑うが、どうもこの男は作り物のように見えてしまう、と妃古壱は冷めたコーヒーを飲みながら思う。
そして常に真面目で公平さを持っているこの男が冗談を言うものなのか、とも思った。
「そんな悪い噂が流れそうな事を言いませんよ」
「黒服を招いていると聞きましたよ?すでにそちらの方面で悪い噂が流れているかと」
「悪い噂じゃない、不思議がられているだけです」
「そうですか。……あぁ、そう言えば」
思い出したかのように書類を差し出す。
軽く目を通せば、今度の取り立てについて地理からターゲットまで事細かく書かれているものだ。
「これは?」
「次の仕事ですよ。お願いしますね」
「……また1人でやれと?」
「えぇ。1人で。貴方なら問題ないでしょう?」
再度目を通せば確かにできない事はない。
ただ1人よりは何人か共に行動した方が容易なはずだ。
「これも隠密に事を運ばなければいけないのですか?」
「元々立会人は単独行動、あまり馴れ合いを好まないじゃないですか。妃古壱さんの敵は多い方ですよ」
主にそのコーヒーのせいで、と言ってやろうかと思ったが、普段紳士的なこの男はコーヒーの事について悪く言われると烈火のごとく怒るのを思い出し口をつむいだ。
「貴方が組んでくれたらありがたいんですけどね」
「私はお屋形様付きなので無理ですよ。ここに残っています」
だから、貴方からの報告を期待していますよ
口元だけで小さく笑う。
妃古壱はため息を吐き、コーヒーを飲み干すと書類を持ち立ち上がる。
「やってあげますよ、せいぜい自然な笑顔になれる練習でもしながら報告を待っていてください判事様」
「そんな言われ方は不本意な所はありますが、楽しみにしていますよ妃古壱さん」
今度はその男前な顔に傷をつけて帰ってこないでくださいね、と冗談なのか本気なのか分からない声色に、妃古壱は困ったように笑った。
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