柚の樹と螢
柚の樹と螢
pixivに載せていた嘘/喰/い同人二次創作作品置き場
不定期に増えます
よくツイッターで呟いていた妄想を書いております
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「アヒルを拾った」
真鍋匠の言葉に、その場にいた全員が匠へと視線を移した。
なるほど、確かに彼の腕の中には1羽のアヒルが収まっている。
「……どこで拾ったんだい?」
「そこの池でみつけた。私に懐いているんだ」
かわいいだろ?と微笑むが周りにいる立会人達の顔は険しいものから呆れているものまで、反応は様々だが
(早く返しに行くように説得しないと)
と、思っていることは同じだった。
別段動物嫌い、という人物がいるわけでもないが、このまま飼育することは大反対だった。
もしもお屋形様に見つかった場合
「僕も動物飼いたいな」
と言い出したら、賭郎内が動物王国になる危険がある。
「課長…元の所に返してきな」
「どうして!?」
「あんた世話している暇がないだろ。それにここは賭郎、密葬課と違ってあんたの好き勝手にはできないんだよ」
「え〜…でも太郎が寂しいって…」
「太郎って誰だよ」
「このアヒルに決まっているだろ!!」
「もう名前つけているんですか……本当に密葬課とはこんな頭が緩い集団の集まりなんですねー」
「お待ち!!課長の悪口は言っても密葬課の悪口は許さないよ!!
「そうだそうだ!!」
「貶されている本人も頷いているって……」
いいのか密葬課、とそんな言葉がよぎる。
そんな事は御構い無しに
「創一君……いや、お屋形様に許可をもらってくる!!」
と、アヒルを抱えながら匠は飛び出して行った。
「飼育許可貰った」
「えぇ!?」
「つーか何で増えているんだよ!?」
アヒルを三羽抱えた匠が笑顔で戻ってきた。
「だって反対されるかと思って。まだいるんだ」
するとタイミングよく、開けっ放しのドアからアヒル達が入って来た。
その数は10羽近くはいる。
「今更大勢連れてきた方が反対されるだろ……」
「よくもまぁそんなに連れてきたのぉ」
足元をアヒルだらけにして笑っている光景はシュールだ。
「皆に紹介してやろう。この腕にいるのが太郎次郎三郎だ。……太郎に関しては一郎の方がいいかな?」
「名前悩んでる暇があるならこいつ等の小屋作れよ。どこで飼う気なんですかー?」
「あぁ、中庭を使っていいと言われた」
「え……中庭……?」
賭郎の中庭はよく手入れされており、人工池もある職員達の憩いの場だ。
憩いの場ではあるが、その手入れしている人物は掃除人夜行丈一。
立会人になったばかりの匠が、彼の聖域(?)をお屋形様の許可を得たからと言って
荒らしていいものだろうか。
「鷹さん、小屋を作るのを手伝ってくれ」
「設計図はあるのかい?それと材料も」
「創一君が準備してくれた。……あ、お屋形様だった」
「ここでは一応社長みたいなもんだから間違えるんじゃないよ」
そう言って匠と鷹とアヒル達はオフィスから出て行く。
数分後、内線で『真鍋さん……真鍋立会人のアヒル小屋作り手伝ってあげて』と創一からの連絡が来る事を立会人達は知らない。
全員で小屋を建築したせいもあるかもしれないが、立会人達もアヒルに対してわずかながら愛着を持つようになった。
しかし一番溺愛しているのは匠だ、仕事をさっさと終わらせるとアヒル達の元へ行き、食事管理や衛生面での管理、そして2週間に一度は健康診断に出すなどの徹底ぶりだ。
しかも中庭だけでも広いと言うのに、わざわざ会社内を散歩させるという珍行動には皆頭を悩ませていたが「アヒルの行進ってかわいいね」と創一が言ってから注意しようにもしかねていた。
何故か匠に対して創一は甘かった。
そんな穏やかな日々も、そう長くは続かなかった。
「太郎、次郎……エリザベス?ヴィクトリア?」
匠が中庭に行くと、そこにはアヒル達が殆どいなくなっており、大量の羽根が散らばっていた。
必死になって呼びかけるがどこにもいない。外へ逃げたかと思ったが、柵が壊れた形跡はない。
「太郎達を知らないか!?」
中庭を通りかかった職員を捕まえては必死の形相で匠が尋ねる。
全員驚いた顔を見せるものの、首を横に振って手がかりは何一つ得られなかった。
「……そうかい、太郎達が……」
「これは誘拐かもしれんの」
「しかしよぉ……何でアヒルを誘拐するんだよ?」
「元の場所に戻っただけなんじゃないんですか?……でもアヒルは柵以上の高さまで飛べないか」
「夜行掃除人なら何か知っているかもしれませんねー」
オフィスにいた花と若手達に事情を説明すると、やはり誰も知らない様子だ。
匠が「お腹を空かしていなければいいのだが……」とつぶやいた時、丈一が入って来た。
何かを解体していたのか、血の付いたエプロンを身に着けている。
匠以外の全員が嫌な予感がした。
「昼飯ができたぞ。アヒル肉なんて久しぶりに使ったから時間がかかってしまった」
「え……アヒルの肉……?」
「あぁ、中庭にいたあいつ等だ。きちんと飼育されていたお陰で食肉として使用しても問題なかった」
そう言われて案内された食堂には、美味そうな肉料理が並べられていた。
それが何の肉なのか、全員が理解した。
「あぁ……太郎、次郎……パントリーナ……権之助……」
「あいつ、どの料理がどのアヒルなのか分かるのか?」
「いやさすがに当てるのには無理があるだろ」
料理達を前に、匠は膝から崩れ落ちた。その目には一筋の涙が伝う。
「夜行掃除人、さすがにあれは……」
「あんなにいた所で困るのは我々だ。そしたら食肉として食べた方がいいだろう」
「気持ちはわかるけどね、課長は繊細な心の……」
花が言いかけている時だった。
匠は立ち上がると、料理を、食べた。
……え?
その場にいた全員が思った。
あれだけ愛し、丁寧に育て、そして涙した男が普通に食べているのだ。
「あの、その……真鍋立会人、どうして食べているんだ?」
「何かおかしい事でも?」
「いやさっきまで泣いていたから……」
「あぁ、もちろん悲しいさ。しかし、こうして料理として提供されたからには食べてやるのが一番の供養だろ?」
お前達も食べるがいい、と匠が料理を差し出す。
それを若干引きつつ
「あいつは、きちんと動物を飼う事を自覚していたのか……」
と、ちょっとだけ考えを改める立会人達であった。
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