柚の樹と螢
柚の樹と螢
pixivに載せていた嘘/喰/い同人二次創作作品置き場
不定期に増えます
よくツイッターで呟いていた妄想を書いております
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天気予報では1日中快晴と言われていたが、匠の目の前では雨が降っている。
雨が止む気配が無く、昇降口にはため息を吐いた学生達が同じように外を眺めていた。
「鷹さんの言っていた通りだ」
匠はカバンを開くと黒い折り畳み傘を取り出した。
いつ雨が降っても大丈夫なように、と渡されていたそれを使うのは今日が初めてだ。
「真鍋用意いいなー」
「まぁな」
クラスメイトに素っ気なく返事をすると、雨の中を歩く。
1人暮らしをしている匠には迎えに来てくれる親がおらず、母親のように慕っている隣人の鷹さんこと三鷹花は仕事で忙しい人だ、そもそも迎えに来てもらおうとは思っていないが。
しばらく1人で歩いていたが、突然背後から誰かが駆け足でこちらへやってきた。
どんどん匠との距離が縮まり、そして肩に軽い衝撃。
「ぐはっ、俺の事を入れてくれ」
いつもは後ろに流している尻尾髪が水を吸ったせいか、重そうに前へと垂れている。
そんな同級生である切間撻器に視線をちらりと向けると
「嫌だ」
と、距離をとった。
匠にとって撻器は好ましいタイプの男じゃなかった。
争い事は極力避けたいのだがなぜか巻き込まれる匠と、争い事があれば積極的に巻き込まれようとする撻器
今までクラスが違うので親しくした記憶はないのだが、何故か撻器は匠の事を気に入っており、よく話かけてきたり匠が喧嘩をしている時は混ざってきた。
そして助けたかと思えば
「よし、俺とお前で勝負だ!!」
と、何度もタイマンを申し込まれていたので、匠はうんざりしていた。
そして問題を起こしたとしても、親が相当な資産家なのか、すぐに問題を消してしまっていたので撻器が咎められることがない。
静かに平和に学校生活を謳歌したい匠にとって、撻器は天敵以外の何者でもなかった。
そんな奴が、なぜ車を呼ばずにわざわざ人の傘に入って来たのか、本当に理解できない。
断れば撻器は眉間に皺を寄せた。
「お前、わざわざ追いかけたのにそれは酷いんじゃないか?」
「わざわざ追いかけてくるな。車を呼べばいいだろ」
「俺はお前と帰りたいんだよ。ほら、入れてくれ」
「断ると言っているだろう」
「……このまま俺が風邪ひいてもいいのか?」
「お前が学校を休めば私が苦労しなくてすむ」
酷い男だ、と撻器が嘆くが匠はさっさと先を歩く。
慌てて撻器は匠を追いかけると、そのまま無理やり傘を持ち隣を歩いた。
体が少し密着したせいか、濡れた制服の感触に匠が顔をしかめた。
「離せ。そして入って来るな」
「俺が傘を持つからいいだろ~?」
「この傘は私の物だ。お前の傘に入れられたと思われたら不愉快極まりない」
「俺の方が背が高いんだから俺が持っていた方がいいだろ?」
「お前を入れてやるなんて一言も言っていない」
「じゃぁこのまま雨に濡れろと?」
「傘を持たずに走ってきたのは自業自得だろ」
そう言い合いしつつも、匠はさりげなく撻器もあまり濡れないように傘を傾けている。
何だかんだで嫌いな奴でも自分のせいで風邪になると思えば後味が悪いのか、それとも匠の無自覚な優しさなのか。
それに気づいた撻器は、匠が濡れないようにしようと傘の柄を持とうと奮闘していた。
「あ」
匠が不意に立ち止まる。
撻器も立ち止まりその傘を奪った。
「おい」
「ぐはっ、俺がしっかり持ってやるから安心しろ」
「そうじゃなくて、お前の家ってここだろ?」
「え?」
言い合いしながら歩いていたせいか、思ったよりも早く撻器の家に着いてしまった。
「私はまだ先だから傘を返してくれ」
「少し濡れちゃっただろ?制服乾かしてやるから家に入れ」
確かに肩が濡れてしまったが、匠は首を横に振る。
「乾かしてやるって、お前のせいだろ……。別に家に帰ってからでも乾かせるからいい」
「今すぐ乾かした方がいいって!!ほらほら」
「大丈夫だと言っているだろ」
その手を振りほどき、傘を持ち直す。
「……風邪、ひくなよ」
「え?」
「お前に風邪をひかせた、なんて噂されたら面倒だ。……じゃぁまた明日」
そう言って匠は速足で帰っていく。
ぽかん、と取り残された撻器だが、すぐに満面の笑みへと変わった。
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