柚の樹と螢
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右目の瞼の上を、指がなぞる。
「……何しているんだ嘘喰い」
「伽羅さん、痛い?」
少し前の立会勝負で負った、左目にある火傷の痕を壊れ物かのように触れる。
暗い寝室では貘がどのような表情をしているのか分からない。
もしかしたら後ろめたさでもあるのかと考えるが、そんな女々しい男ではないことを伽羅は知っている。
恐らくいつも通りの薄い笑みを浮かべながら触っているのだろう、と痛みはないがくすぐったい感触に手を払った。
「心配してあげているのに酷いや」
「こんな時間に変な事して起こすからだ馬鹿。さっさとガキは寝ろ」
「やだなぁ、俺がそこまでガキじゃない事は伽羅さんがよぉぉおく知っているでしょ?」
昨晩の伽羅さん激しかった、と笑い声交じりに貘は言う。
「んな事で大人ぶっているところがガキなんだよ」
「そんなガキにがっついているのは伽羅さんの癖に」
「てめぇが欲しい欲しいってうるせぇからだよ」
面倒になったのか、再度伽羅は目を閉じる。
本来なら人前で睡眠をとることはしたくないのだが、貘を信用しているのか、それともその気になればいつでも殺せるという絶対の自信があるせいなのか、その姿は珍しく無防備である。
「伽羅さん、痛い?」
また貘がなぞる。
今度はつねってやろうかと手を伸ばすと、指が離れた。
そして湿った何かが触れ、それが下から上へ、ゆっくり動く。
「おい」
右目だけ開けて睨み付けるが、貘は無視して行為を続ける。
暗い部屋では間近にある貘の顔は輪郭しかぼんやりと見えない。
「やめろ馬鹿」
「いたっ」
ようやく顔が離れる。
右目には湿った感触が残ったままで、汚いと呟くとシーツでぬぐった。
「伽羅さんの為を思ったのに」
「俺の為を思うなら黙って寝ていろ」
「舐めれば治るって言うじゃん」
「犬猫じゃねぇよ。それに痕が残っただけで目は見えているし問題ない」
「端正な顔に傷つけちゃったからねぇ、俺結構申し訳ないと思っているんだよ?」
「そうかよ」
面倒になったのか、適当に話を切り上げて伽羅は再度目を閉じる。
また何かしてくるかと思いきや、その胸に顔を寄せただけだ。
柔らかな髪がくすぐったい。
「……でも、その傷は俺と伽羅さんの絆の証明だね」
「勝手に言ってろ」
「そこは少しくらい同意してくれたっていいのに。でもいいよ、それが伽羅さんだ」
くぁ、と小さなあくびをしたかと思うと、すぐに寝息が聞こえた。
こんな馬鹿なことをする為に眠気を我慢していたのかと思うと、どうしようもない奴だ。
「何が絆の証明だ」
ならばいつかお前の体に消えない傷をつけてやろうか。