柚の樹と螢
柚の樹と螢
pixivに載せていた嘘/喰/い同人二次創作作品置き場
不定期に増えます
よくツイッターで呟いていた妄想を書いております
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「よう」
「……あぁ、おはようございます」
巳虎が出社した時には弥鱈はすでに仕事をしていた。
巳虎が来た時間でも十分に余裕があるというのに、こいつはいつから来ているのか少し疑問に思う。
しかし、挨拶以外では最低限の会話しかしない2人なので、別に聞くこともなく巳虎も仕事を始める。
「……?」
その時、視線を感じた。
しかも、すぐ横で。
横にいるのは弥鱈のはずだが、あの弥鱈が自分を見るような事があるとは思えない。
気のせいかと思いつつ、横を見ると
「……」
何故か弥鱈が巳虎を凝視していた。
(……は?)
ありえない。
日常で弥鱈が他人を見る事なんてほぼ無いに等しい。
強いて言えば強者が崩れ落ちる瞬間位だが、巳虎は崩れ落ちるような事はしていない。
(ありえねぇだろ、何で?俺なんかしたか?)
先程のやり取りを思い出すが何も変わったことはしていない。
ただいつもより少しだけ早く出社した位だ。
(……まぁ、すぐに視線もどっか飛ぶだろ)
視線が気になる物の、すぐに気持ちを切り替え仕事へ集中した。
(まだ見ていやがる……!!)
午前中の業務が終わり、今は昼休みだ。
業務中はずっと視線を感じていた。
何度も確認したので間違いはない。
「なぁ……」
「はい?」
声をかけてみると、先程まで感じていた視線はどこかへ飛んで行った。
「あれ?」
「?何ですか?」
「あ、いや……お前、午後は立会勝負あるのか?」
「ありませんが……それが何か?」
「いや、何でもない」
「?」
もしかしたら気のせいだったのか?と思った。
良く考えてみれば確認したとしても、横目で確認しただけなのでその視線が正確に自分を見ていたのかは分からない。
たまたま自分の方向のどこか彼方を見ていたのかもしれない。
それをたまたま自分に向けられたものだと勘違いしていたのかもしれない、と巳虎は思った。
そう考えるとなれば一気に気持ちは軽くなる。
そのままいつものように弁当を広げて食べ始めようとすると、また視線を感じた。
「……おっと、ヤベ」
巳虎はわざと箸を落とした。
そして拾い上げるフリをして、弥鱈へと視線を向ける。
「……」
どう見ても巳虎を見ていた。
箸を洗うフリをして弥鱈の視線から逃げた巳虎は休憩室のソファで頭を抱えた。
まず最初に身だしなみについて何かあったのかと思った。
しかし賭郎立会人、そしてあの能輪美年の孫である自分が祖父の顔に泥を塗るような事はしない。
念のため鏡の前で確認したがどこもおかしいところはなかった。
「お、どうした巳虎?」
「切間立会人」
通りかかった撻器が声をかけた。
零號立会人であり先代お屋形様だった撻器に声をかけられると、すぐに立ち上がる。
「そんな直立不動になる必要はない。で、どうしたんだこんな所で頭抱えるなんて」
「実はその……」
本当は言いたくないが、撻器に隠し事はできないだろう、物理的な意味で聞き出されるという意味で。
名前はぼかし視線を感じることを言うと、撻器はうんうんと頷き、そして
「それは告白だな!!」
「こくは……!?」
「そんな熱視線を送るなら間違いない。ほら、こういうだろ?目は口ほどに物を言うって。しかし……ぐはぁっ!!本当にそれを実行する奴がいるとはな」
おかしそうに撻器は笑っているが、巳虎には大問題だ。
何と言っても弥鱈は同性だし仲がいいわけではない。
もちろん相手からアプローチすることはなく、自分も誤解するような行動は起こしていない。
なら何で自分に告白してくる?
「青春しているなぁ巳虎!!」
肩を強く叩くと、がんばれよと言い残し撻器は休憩室から出て行った。
残された巳虎はこの後の仕事もやっていけるのか……と不安になった。
弁当は1口しか食べられなかった。
「能輪立会人」
「な、何だよ」
終業時間になり、巳虎は最後の確認を終えてパソコンの電源を切ったと同時に、もう帰り支度が終わっている弥鱈が声をかけた。
撻器の言葉を思い出し、つい身構えてしまう。
「実はお聞きしたいことが」
「……ここでか?」
まだ人がいるのに告白する気か!?と完璧身構えている巳虎とは対照的に、弥鱈はいつも通りだ。
「えぇ。朝から気になっていることでして」
「お、おう」
弥鱈が巳虎を指差す。
その指の先にあるのは―――ネクタイだ。
「それ、いいですね。どこで買ったんですか」
「……それかよ!!」
「?」
「何でもねぇ。……と言うより、普通に言えよ!!黙って見られてこっちは気まずかったんだよ!!」
「そうだったんですか。それは失礼しました」
反省の色は全く見えない。
しかしこれ以上怒鳴っても仕方がないので、ネクタイを買った店を教える。
「なるほど。ありがとうございます」
「おう。ネクタイをずっと見ているなんてお前も物好きだな」
「いえ、他にも見ていたものがありますよ?」
「あ?」
「あなたはよく耳を見ろと言いますよね?」
「あぁ。このじいちゃん譲りの耳はしっかりと目に焼き付けろ」
自慢げに耳を指差すと、弥鱈の視線が巳虎とかち合う。
「耳もそうですが、私はあなたの顔を見ていたのですが」
「…………は?」
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