柚の樹と螢
柚の樹と螢
pixivに載せていた嘘/喰/い同人二次創作作品置き場
不定期に増えます
よくツイッターで呟いていた妄想を書いております
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『第3地区は完了しました。そちらの様子は?』
『第2地区完了』
「あぁ。もうすぐ終わる」
無線から聞こえる部下の報告を聞いて、最後の1人を見下す。
両手両足の骨が折れたその男ができる事とすれば、恐怖に顔を歪ませる事だけだ。
「お前が最後だ。データの所在はどこだ?」
「こ……こんな事が許されるのかよ!?」
「お前達自身が起こした事件を考えろ」
この周辺に人が来ないように警戒網を張っているとは言え、騒がれたり無駄に時間を浪費すれば面倒になる。
しかし男は騒ぐ。
「お前等みたいなのが警察かよ!!こんなのが、正義かよ!!」
「……」
「てめぇ等の都合の良いようにするために、俺達ころ゛ぅっ!!」
言い終える前にその命を絶つ。
死んだのを確認し、その体を探れば目的のUSBが見つかった。
それをポケットの中に入れると、無線ではなく携帯で連絡を入れた。
「……終わったよ鷹さん。迎えを頼む」
『了解。すぐに手配をするよ』
電話を切り、壁にもたれかかるように座り込む。
来るまでは数分だが、やっと終わった事により溜め込んでいた疲労がじわりじわりと体を蝕む。
「正義……か」
もう死んで動かない男を一瞥し、ポケットの中に入れたUSBを手の中で弄ぶ。
この程度の物、殺さずとも手に入れることはできた。
『この案件に関わった者達は、全て密葬しろ』
この案件を渡した時の、笹岡の言葉が脳裏をよぎる。
「……これが正義なんだ」
自分に言い聞かせるように、長は呟いた。
数分で来た鷹は、後部座席に長を乗せるとその顔色を見た。
「……疲れているようだね。あとはあたしが何とかするから、課長はもう帰って寝てな」
「大丈夫だ。報告書の作成がある」
「それはあたしがやるって言ってんだ。さっさと家に帰りなBOY」
「駄目だ。これは私の仕事だ」
しばらくにらみ合いをして、折れたのは花だった。
「無茶をするんじゃないよ」
「分かっている」
警視庁に到着すると、すぐに報告書の作成に入る。
面倒だが些細な事でも明記しておかなければ、その後に行われる隠ぺい工作の矛盾が生じる恐れがある。
密葬課の存在は決して悟られてはいけない
警察の闇を国民にさらすわけにはいかない
そしてこの密葬課の長である自分が全ての責任を持って任務を遂行させなければ、化け物と称される自分達の居場所が無くなってしまう事を一番理解していた。
「ぐはぁ、帰ってくるのが遅かったな」
「帰れ」
何度も確認し、誤字脱字矛盾なく仕上がった報告書の1部を作り終えたのは日付を超えてからの事。
家に帰って着替えと仮眠をとったらまたすぐに出勤し、部下からの報告をまとめて完成させなければいけない。
そんな激務の中で勝手に家に入ってきた撻器の相手をする気は起きなかった。
「どうした?機嫌が悪いのか?」
「今忙しいんだ。消えろ」
「そんな事言うな。俺だって忙しいが会いに来たんだぞ?」
「お前が勝手に来ただけだ」
そう言ってスーツを脱ぐと、すぐにベッドに倒れ込む。
普段なら無防備な姿をさらけ出す事はしないが、もう何もかも無気力になっていた。
撻器はベッドに腰掛け、長の頬を撫でた。
「……やつれたな。クマもできている」
「早く消えろ。気配が鬱陶しい」
「よく言うよ。俺が隣にいても寝ている事なんて何度もあったくせに」
「黙れ」
「分かったよ。今日は帰るさ」
撻器が素直に帰るのは珍しいが、今は眠い。
シャワーを浴びたい気分もあったが、素直に意識を手放した。
「―――以上です」
「なるほど。ご苦労」
「……この案件は、殺す必要があったのですか?」
批判するわけではないが笹岡に問いかけてみる。
案の定睨みつけられ、やはりこれには何かしら上にとって都合が悪い事が絡んでいるのか、と長は思った
「いいか?あのファイルにあるデータが表に流出してみろ。この国を混乱に招いてしまう。警察として、その混乱を未然に防ぐことが第一優先事項ではないか?」
「そうですね」
「お前達密葬課は、ただ黙って私のいう事だけを聞けばいい。我々は正義なんだ。何も疑問に思う事はない」
「分かっています。失礼しました」
「―――以上が、自分の報告です」
「分かった。ご苦労」
「あの、課長。だいぶ顔色の方が悪いと思うのですが……」
「問題ない」
「そうですか……すみません」
「……課長、あんたもう帰った方がいいよ」
「鷹さん」
「下っ端にまで気を遣われるなんざあんたらしくないさ。ゆっくり休みな。このさいなら溜まっている有給全部使ったっていいさ」
「それはできないだろ」
「つべこべ言わず休めって言ってんだよBOY」
地位は自分の方が上とは言っても、花に言われれば押し負けられる。
報告書が完成した直後には問答無用で車に押し込められ、強制的に帰宅させられた。
「……寝るか」
罪悪感はあるものの、半ば強引な好意によって休みができた長は体調を戻すべく寝ることにした。
普段は仕事をしている時間に寝るのも違和感しかないが、すぐに意識は沈んでいく。
そのまま手放そうとした時に、耳元で誰かが話しかけた。
《本当に私は正しいのか?》
「!?」
振り返るが誰もいない。
しかし、声は聞こえる。
《今回の案件は明らかに警察の保身を考えたものだったな?殺す必要があったのか?》
《私がやった事は、確かに表向きの犯罪者を始末していた。しかし、お前はそれよりも更に大きな悪を守るためだけではないか?》
《世の秩序を守るのが我々警察と言ったが、その秩序を裏で乱しているのも我々警察じゃないか》
《それでもお前は、なぜそれを守る?》
《それが正義だからか?それでこそ秩序を守るために必要な警察の姿だからか?》
姿なき声は笑っている。
あざ笑うように貶すように憐れむように笑う。
《それとも……ただ、自分の居場所を無くしたくないだけだから、認めようとしていないだけじゃないのか?密葬課》
振り返った長は、自分の足元に誰かがいるのを見つけた。
《これが、本当にせいぎなの?》
幼き頃の自分が、自分に問いかけてきた。
「……さ、長!!大丈夫か!?」
「たつ……き?」
物が散乱している部屋の中に入ってきた撻器に疑問を持つ。
帰った事は言っていないはずなのに、どうしてここにいる?
すぐに押し帰そうと踏み出せば、砕けたガラス片が足に刺さる痛みが走った。
良く見てみれば手も血だらけになっている。
「落ち着け、大丈夫だから」
撻器は長を抱きしめると、あやすような声で背を撫でる。
何が大丈夫だ、と言いたかったが、その声が思いのほか優しかったのと背を撫でる手が温かくて、思わずその体にしがみついた。
いつの間にか寝ていたらしい。
気づけば撻器に体を預けた形で寝ていた。
手や足は治療されていある。
「……人の手とは、温かいものなんだな」
「どうした急に?」
「!!」
起きているとは思っておらず、思わず身を強張らせる。
「ぐはぁ、眠れたか?」
「……あぁ」
「それはよかった。まだ夜だし、もう少し寝るか」
「何も聞かないのか?」
「聞いてほしいのか?」
「いや……」
「なら寝ていろ。安心しろ、傍にいるから」
「…………悪い」
「昨日は悪態ついていたのに変わるものだな」
くくくっ、と意地悪そうに笑うが不思議と不快には感じないのは、今自分が弱っているせいなのか。
「お前は背負いすぎだ。あまり無理をするな」
「……」
「辛い時くらい俺を呼べ。いつでもではないが、こうやって眠って起きるまでは傍にいてやるよ」
「口うるさい睡眠薬代わりとは笑えないな」
「ぐはぁっ、憎まれ口はいつも通りだな。ほら、おやすみ」
こんな所見せたくないはずなのに、と思うがこんな姿を見せられる唯一の存在に甘えるように、少しだけその身を寄せて目を閉じた。
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