柚の樹と螢
柚の樹と螢
pixivに載せていた嘘/喰/い同人二次創作作品置き場
不定期に増えます
よくツイッターで呟いていた妄想を書いております
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何もすることなく時計を眺めていた撻器の耳に、玄関の鍵が回される音が届いた。
日付が変わる前に帰ってくるのは久しぶりだな、と思い振り返ると、疲れた様子を全く見せない長がDMをゴミ箱に放り込んでいた。
撻器に気づいたが、視線を一度向けただけで何も言わずにネクタイを緩める。
「箕輪とやらに会ったぞ」
お帰りの前に第一声で言ってみると、動きが少しだけ止まった。
表情はいつもと変わらないが、内心では動揺しているのだろう。
「……そうか」
「何があったのか聞かないのか?」
「聞いたところで見えなければ意味がない。やはりいたのか」
「見えなければ意味がないと、あの男も言っていた」
「……」
「血だらけだった。特に口元がすごかったなぁ。まるで人を食ったようにも見えた」
「……切間」
「さまよい続けたらしいぞ?密葬課にも行ったと言っていた。どこに行くんだと聞いたがさま 「切間、やめろ」
言葉に怒気が含まれている。
今まで何度か怒らせた事があるが、ここまで苛立ちを隠していないことはなかった。
「事実を述べているだけだ。会った事を報告するくらいいいだろ?」
「箕輪の事はお前よりも私の方がよく知っている。お前の戯言を聞く気はない」
「戯言とはいえ、俺のように彷徨っているんだぞ?心配じゃないのか?」
「あいつは信頼できる男だ。仮に彷徨っていたとしても、自力で状況打破する。こうして私の家に居座っているお前と違ってな」
お前と話すと疲れると言い残し、長は部屋に入っていく。
撻器も同じように入れば苛立ちを隠さず舌打ちをした。
「無駄な体力を使うな」
「別にいいだろ。線香を食えばすぐに元通りだ。言わなかった方がよかったか?」
「……いや、聞かなければずっと捜していただろうな」
その言葉は、自分が見えるようになってから箕輪の姿を捜していたことを事実にしており、撻器の心にドロリと黒く淀んだものが流れ込んだ。
これでは箕輪と変わらないな、と自虐的な笑みを浮かべれば怪訝そうな顔をされた。
「なぜ笑う?」
「箕輪が羨ましいな。こんなにも長に愛されているなんて」
「変な言い方をするな。部下を悼む気持ちがあって何が悪い」
「それもそうだが。そうやって捜してもらえるなんて羨ましいだろ」
「お前が見えたからだ。お前が見えなければ墓に線香をあげるだけだった」
面倒になったのか、出て行かせようとドアを開ける。
これ以上機嫌を損ねると唯一の食事である線香が貰えなくなる、と思い撻器は大人しく開けられたドアから出ていく。
「最後にいいか?」
「……何だ」
「俺もここに居つかないで、箕輪のように彷徨っているほうがいいか?」
不快に感じられることを承知で聞いてみる。
求めている答えなんて返ってくるなんて思っていないが、長はいつもと変わらない無表情で撻器に視線を向けると
「お前が出て行ったら、家にある線香を誰が消費する?」
と、面倒そうに答えた。
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