柚の樹と螢
柚の樹と螢
pixivに載せていた嘘/喰/い同人二次創作作品置き場
不定期に増えます
よくツイッターで呟いていた妄想を書いております
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「まぁ茶でも飲んでいろ。もう少ししたら色々話したい」
焼香を済ませた後、姉の夫で私の義兄ある蜂名……切間撻器にそう言われた。
蜂名と名乗っているのには何かしら理由があるらしいが、それは私には関係が無いので興味はない。
私が葬儀場に入ると、当然ながら両親だった夫婦がいた。
私を死んだものだと思っていた夫婦は驚愕しており、私を追い出そうとした際に義兄が
「俺が呼んだ。文句があるのか?」
と言えば、すぐに黙り込んだ。
私を見る目は相変わらず嫌悪そのものだったが、ずいぶんと老け込んだ夫婦の顔を見てこんなにも小さかったのか、と怒りはわかなかった。
「……お久しぶりです、姉さん」
遺影に写っている姉は柔らかく微笑んでいて、きっと幸せだったのだろう。
ありがとう、とだけ伝えて帰ろうとしたら義兄に捕まり、別室で待っているよう言われた。
案内されたのはいいが、困る。
そもそも姉とはあの日以降全く連絡を取っておらず、もしもあの時テレビを見ていなければ一生会わなかったのに何を話そうと言うのだろうか。
義兄と姉が共に暮らしていた時の事を聞けば、姉について何か知れるだろうが。
「帰るか」
義兄には申し訳ないが、私は姉に別れの挨拶を済ませた以上、もう用はない。
あの夫婦も何かしらまた騒ぎ出すだろうし、置手紙を書こうとペンを探した時だった。
「……母さん?」
幼い子供の声が聞こえた。
横を見れば少しだけ開いた襖から、おそらく小学生になる位だろうか、男の子が私を見ている。
特徴的な前髪は義兄に似ており顔は……どことなく姉に似ているような気がする。
2人の子供だろうか、年齢を考えればこの位の子供がいてもおかしくない。
すぐに私が姉ではないと気づき、子供は慌てて頭を下げてきた。
「あ……ごめんなさい」
「気にしなくていい」
「でも、お兄さんは母さんに似ている」
「そうか?」
「うん。お兄さんはだれ?」
「私は……」
少し迷った。
ここで姉の弟だ、と名乗ったとしても、姉は私の事を話していない可能性がある。
そうだとしたら甥にあたるこの子供に混乱させてしまう。
「母さんの弟だ」
襖が大きく開かれると、義兄が部屋の中へ入って来た。
「母さんの弟……たくみお兄さん?」
「そうだ」
「姉はこの子にも私の事を話していたのか?」
「あぁ。大切な弟がいる、とよく言っていた。いつか会わせてやりたいともな」
「そうか」
嬉しかった。
自分の事を忘れないでくれて、いつか会ってくれようとしていてくれて。
「たくみお兄さんは今日とまっていくの?」
「いや、もう帰る 「そうだぞ~。だから創一、匠お兄さんに母さんの事をいっぱい話してやってくれ」
「うん!!」
こっちで話そう!!と甥……創一君に手を握られた。
どうすればいいんだ、子供の心を傷つけないためにはこのまま話を聞くべきだが、正直な話を言えばどう接するべきか分からない。
「創一から話を聞いてくれないか?」
「しかし、私が話を聞いたとしても……」
「本当は寂しがっているんだが俺にはそう見せないよう明るく振る舞っているんだ。少し話し相手になってくれ」
「……分かった」
創一君からしても義兄からしても、愛する母と妻を失ったんだ、深く悲しんでいるのだろう。
ただ私が話し相手になったところでその悲しみを取り除けるのだろうか。
「それでね、母さんがこれをかってくれたんだ」
「綺麗なオルゴールだな」
「うん。たから物も入れられるの」
「どんなものを入れたんだい?」
「あのね、これは父さんからもらったやつで、これは母さんから……」
言葉が途中でつっかえたかのように止まる。
顔を見れば、その目から涙がボロボロ零れ落ちた。
「あ、ごめんなさい……っ」
必死に泣き止もうとしている。
迷惑をかけたくないからずっと我慢し続けていたのだろう。
「我慢しなくていい、泣いていいんだ」
創一君は私に抱きつくと、しゃくり声を出しながら泣いた。
泣き疲れてしまったようで、しがみついたまま寝ている。
少し腫れた目元についている涙を拭いとり、部屋の中にあったベッドに寝かせようとしたが、私から手を離す様子が全くない。
と言うよりも、離そうとしても意外と力強い。
「……まぁ、いいか」
創一君は我慢し続けていたのだから、今日は傍にいてあげよう。
誰か隣にいてくれるのは、安心する事なのだろうから。
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