柚の樹と螢
柚の樹と螢
pixivに載せていた嘘/喰/い同人二次創作作品置き場
不定期に増えます
よくツイッターで呟いていた妄想を書いております
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浴槽は満たされている
「……こんな所で寝ているんじゃねぇよ」
「んぁ?」
脇の下に手を差し込まれ、そのまま上半身を引き上げられる。
バシャンと音を立て、浴槽から湯が流れ落ちる。
ちらりと腕を見てみれば、黒いスーツ姿のままだ、きっとズボンが派手に濡れてしまっただろうな、とぼんやりとした頭で考える。
「きゃらさん」
「疲れているのか?」
「ん。ちょっとだけ」
濡れた体のせいか、ぶるりと身を震わせる。
「きゃらさん、」
「何だ」
「ぎゅー、ってして」
「……」
何も無い空間へと手を伸ばす。
後ろで自分を支えている伽羅はきっと呆れているだろうな、と思うが、それと同時にきっと願い事を叶えてくれるだろうな、とも思う。
「スーツが濡れる」
「もうぬれているよね?」
「……はぁ」
面倒そうなため息と同時に、そのまま浴槽から出され、後ろから抱きしめられる形になる。
「これでいいだろ」
「もっと強くだきしめて」
「テメェの骨が折れる」
「あはは」
体を反転させて伽羅と向かい合うと、そのままスーツのボタンを外そうとする。
しかしその指には力が入っておらず、もどかしい手つきだ。
「何したいんだ」
「スーツきていたんじゃ意味がないの、ぬいで」
「……あのなぁ、貘。お前のぼせて頭おかしくなっているんだろ」
「そんなことないよ」
呂律が回っていない状態で、弱々しく首を横に振る。
「さむいの」
「体をふかねぇからだよ」
「あっついお湯にはいっても、さむいの。凍え死にそうなの。体を沈めても、あったまらないの」
そう訴える貘の様子を伽羅は黙って見ている。
「だからね、伽羅さんのたいおんほしいの。あったかくなりたいんだ、おねがい」
「……バカが」
スーツとシャツを脱ぎ、貘の体を抱きしめる。
普段の彼からは想像できないように、壊れものを扱うかのように、優しく包み込む。
「風呂入ってぶっ倒れるような真似すんじゃねぇよ」
「…………伽羅さん、あったかい」
「良かったな」
「うん」
これなら、もう凍えないよ、と貘は熱を求めるようにすがりついた。
「……伽羅さん、」
目を開ける。
寒さから耐えるように丸めていた体を伸ばし、浴室に向かう。
「伽羅さん、ねぇ」
どこに行っちゃったの
早く帰って来てよ
「凍え死んじゃうよ、伽羅さん」
抱きしめて温めてよ
貘の瞳から透明な雫が流れ落ちる。
浴槽は、また満たされた
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