「もうすぐバレンタインだな」
「……そうだな」
「匠、俺にチョk 「そう言えば、バレンタインデーは聖ウァレンティヌスが殉教した日だったな」
バッサリと切り捨てた匠だが、撻器は折れた様子がない。
「……ふっ、甘いな」
「?」
「それは西方教会というキリスト教用語の所の伝承で、愛の告白のバレンタインデーには関係ない!!」
「……チッ、調べていたのか」
「ある程度予想はついていたからな」
得意げに言う撻器に、匠は舌打ちを打つ。
「……そもそも、お前は他の奴等から嫌って程貰えるだろ」
「でも、俺は匠のも食べたい」
「……分かった。明日辺り買ってきてやる」
「手づくりがいい!!」
「我侭言ってんじゃねぇよ」
一蹴する匠に、撻器は分かりやすいほど落ち込む。
「だったら、匠がリボンを体に巻きつけて、俺にプレz「よーし、歯を食いしばれ」
その後、撻器は匠にボコボコになるまで殴られた。
「……」
「そんな捨てられた子犬みたいな目をしても、作らないからな」
「何で?」
「面倒だから」
それだけではなく、密葬課としてのスケジュールは詰まっているので、作っているヒマがない。
「う~……匠の手づくり……」
「我侭言ってないで、さっさと帰れ。外で黒服達が待機しているんじゃないのか?」
「あ、そうだった」
そう言うと、撻器は慌てて出て行った。
そんな撻器の後ろ姿を見送った匠はため息を吐き、これからのスケジュールを見た。
バレンタインデー前日の帰り道、匠はデパートに寄った。
「やはりすごいな……」
バレンタインデーフェア、と広告が掲げられ、そしてそこには女性達がどれを買おうかと品定めをしていた。
何か買ってやろうか、と思ったが自分は男、この空間に入れないな、と諦め食品コーナーから出て行った。
「……あ」
とあるアクセサリーショップにて、匠は気になるアクセサリーを見つけた。
撻器のピアスと同じようなデザインのアクセサリーで、思わず欲しいと思ったが
「……こんなものをつけていたらあいつが喜ぶだけか」
と、苦笑した。
そして、撻器がいたら
「絶対に似合う!!ペアルックで買うぞ!!てか、買う!!」
と、言うだろうな、と思い
(……何で少し残念に思っているんだ私は)
と、微妙に自己嫌悪をした。
そして、バレンタインデー。
「……すごい量のチョコだな」
「まぁな。毎回処理に困る」
各方面の人間から届いたであろうチョコの数に、撻器は苦笑を浮かべた。
「それで、匠からは?」
「ほら。買ってきたからやるよ」
「……」
「そんな顔したって、買ったものは買ったものだ」
「じゃぁ、俺からも。はい」
「え?」
匠は目を丸くさせる。
「何だその意外そうな顔は」
「人に言っておいて自分は渡さないものだと思っていたからな……まぁ、ありがとう」
受け取ると、早速開けてみる。
すると
「…これは」
昨日匠が見ていたアクセサリーだった。
「チョコの方がいいのかなぁ、って思ったんだが、どうせなら形が残るのが良いと思ってな」
「……」
「それで、色々見て回ってたらそれがあったんだ。匠に似合いそうだなぁ、って思ったんだが、どうだ?」
「あ、ありがとう」
素直に嬉しいと思ったのと、似合いそうと言われて照れた。
すると
「じゃぁ、今夜は俺とチョコプレイ 「するわけねぇだろ!!」
抱擁を求めた撻器の顔面に、匠の拳がめり込んだ。
結局、いつもと同じことだったが、次の日に変わった事が1つ。
普段は何もつけていない匠が、その日からアクセサリーをつけるようになったとか。
おまけ
家に帰った撻器は、早速匠からのプレゼントを開けた。
すると
「あれ?」
何故か、トリュフが入っていた。
しかも、形がやや歪だ。
《作らないからな》
今思えば、匠もスケジュールをこなす為に色々無理をしているのだろう。
でも、自分にトリュフを作ってくれた。
「ありがとう、匠」
と、撻器は一口食べた。
「ん、美味い」